ケトジェニックダイエットのメリット
第1章でも簡単に触れましたが、本章ではケトジェニックダイエットのメリットを詳しく解説していきます。
代表的なケトジェニックダイエットのメリットは以下の10点です。
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体重減少
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肌荒れの改善
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血糖値安定化
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空腹感がなくなる
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エネルギー効率の向上
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筋肉量の維持
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集中力の向上
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心血管疾患のリスク低減
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炎症の緩和
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がんに対する研究
1. 体重減少
「ダイエット」とついているので明らかなことですが、ケトジェニックダイエットには体重減少の効果があります。
第1章では断片的に解説をしましたが、改めて「なぜケトジェニックダイエットで体重が減るのか」をロジカルに理解しましょう。
ケトジェニックダイエットが体重減少に寄与する主な理由は、食事摂取の変化により代謝プロセスやホルモンバランスが影響を受けることです。
まず、ケトジェニックダイエットは低炭水化物かつ高脂質の食事法であり、これによって血糖値の急激な上昇が抑制されます。炭水化物の制限により、体は脂質を主要なエネルギー源として利用するようになります。この状態を「ケトーシス」と呼び、脂質が代謝されてケトン体として体内で利用されることで、脂質がエネルギーとして燃焼され、体重減少が促進されます。
さらに、ケトジェニックダイエットはインスリンの分泌を抑制し、脂質の蓄積を抑えます。低炭水化物の食事により、血糖値の急激な変動がなくなり、それに伴ってインスリンの急激な分泌も緩和されます。これによって、体内の脂質が効率的にエネルギーに変換され、同時に脂質の蓄積が抑制され、体重の減少が期待できます。
最後に、ケトジェニックダイエットは食事の制限によりカロリー摂取が制限される傾向があります。脂質やタンパク質は満腹感を促進するため、食事の間隔が広がり、自然とカロリー摂取が抑制されることがあります。この食事の制限により、エネルギーの消費が摂取よりも多くなり、体重が減少する要因となります。
ケトジェニックダイエットで痩せる理由を単に「糖質を抑えるから」と抽象化させるのでなく、「脂質を分解してケトン体をエネルギーにすること」「血糖値の安定化や脂質・タンパク質による満足感によって食欲が抑制されること」など、高い解像度で理解しておくことが大切です。
2. 肌荒れの改善
ケトジェニックダイエットが肌荒れの改善につながる理由は、糖質の制限や炎症の抑制など複数の要因が絡んでいます。
まず、ケトジェニックダイエットは炭水化物摂取を制限するため、血糖値の急激な変動が緩和されます。高血糖状態は、過剰な糖化ストレスを引き起こし、これが肌のコラーゲンやエラスチンなどの組織を損傷する可能性があります。ケトジェニックダイエットによる低血糖状態は、肌への糖化ストレスを軽減し、肌の健康を促進する要因となります。
また、ケトジェニックダイエットは炎症を抑制する可能性があります。炭水化物の摂取を減らすことで、特に炎症性の疾患やアレルギー反応が改善されることが多く見られるようです。これは、炎症が肌荒れや吹き出物などの皮膚問題に寄与する可能性があるためです。ケトジェニックダイエットが炎症を緩和することで、肌の状態が改善されると考えられます。
さらに、ケトジェニックダイエットは脂質や抗酸化物質の摂取が増える傾向があります。これにより、肌の保湿や柔軟性をサポートする栄養素が豊富に摂取され、肌の健康を促進することが期待されます。
総合的に、ケトジェニックダイエットが血糖値の安定化、炎症の抑制、栄養素のバランスなどを通じて肌の改善に寄与すると考えられます。
3. 血糖値安定化
ケトジェニックダイエット中に血糖値が安定化する理由については度々述べてきましたが、改めてその理由を詳しく解説します
ケトジェニックダイエットが血糖値の安定化につながる理由は、炭水化物の制限によってインスリンの調整が改善され、血糖値の急激な上昇を抑制するからです。
まず、ケトジェニックダイエットは非常に低炭水化物な食事法であり、炭水化物の摂取を極力抑えます。通常の食事では摂取される炭水化物は、消化されてブドウ糖(血糖)に変換され、それが血液中に放出されます。この血糖値の急激な上昇は、インスリンの急激な分泌を引き起こし、結果として急激な血糖値の下降をもたらします。
一方で、ケトジェニックダイエットでは摂取される炭水化物が少ないため、血糖値の急激な変動が緩和されます。体内に十分な糖分がない場合、肝臓は脂質を分解してケトン体に変換し、これをエネルギー源として使用します。このプロセスにより、血糖値が安定し、急激な上昇や下降が抑制されるのです。
さらにこのダイエット方式では、脂質とタンパク質の摂取が増える傾向があります。これらの栄養素は消化が遅く、食事の満腹感を長時間維持します。食事の間隔が広がり、飢餓感が軽減されるため、インスリンの急激な変動が抑制され、血糖値の安定化が促進されると考えられます。
また、脂質やタンパク質を中心に食事を構成するため、満腹感が維持されやすくなります。これにより、食事間の間食や過剰な食事を抑制し、血糖値の急激な変動を防ぐことができます。
これらの要因が組み合わさり、ケトジェニックダイエットが血糖値の安定化に寄与するとされています。
4. 空腹感が軽減される
先ほども触れた通り、ケトジェニックダイエットでは脂質とタンパク質中心の食事になりますので、空腹感が軽減されます。
しかし、空腹感が軽減される理由はそれだけではありません。
ケトン体の利用
ケトン体は脳の主要なエネルギー源の一つとなります。通常、脳はブドウ糖をエネルギーとして利用しますが、ケトン体も同様に脳において効率的に利用されます。ケトン体を主要なエネルギー源とすることで、血糖値の急激な変動が緩和され、脳は安定したエネルギー供給を受けることができます。これが空腹感の軽減に寄与します。
低糖質ダイエットの影響
ケトジェニックダイエットでは、炭水化物の摂取を制限するため、血糖値の急激な上昇が抑制されます。急激な血糖値の変動が避けられることで、それに伴う急激なインスリンの分泌も緩和されます。血糖値とインスリンの安定化が、食後の空腹感や間食の欲求を抑制し、食事制御をサポートします。
適切な栄養摂取
ケトジェニックダイエットは脂質やタンパク質の適切なバランスを重視します。これにより、栄養がバランスよく取られ、身体が必要な栄養素を得ることができます。
栄養バランスの取れた食事は、複数の栄養素を適切な割合で含んでいます。例えば、良質なタンパク質、健康な脂質、繊維質、ビタミン、ミネラルなどがバランスよく摂取されると、それぞれの栄養素が役割を果たし、食後の満腹感が向上します。特にタンパク質や脂質は、満腹感を感じやすくする働きがあります。
栄養バランスが取れた食事を摂ることで、身体の栄養ニーズが満たされやすくなります。栄養欠乏が予防されると、身体が十分な栄養を得ることになり、飢餓感が緩和されます。特に、ビタミンやミネラルなどの栄養素が不足しないように摂ることが大切です。
以上のように、ケトジェニックダイエットに適した食事スタイルは空腹感を満たされやすく、辛いダイエット方法と比べると続けやすいものとなっています。
5. エネルギー効率の向上
ケトジェニックダイエットがエネルギー効率の向上に寄与する機序はいくつかあります。以下にその主な要因を解説します。
ケトン体の効率的なエネルギー源
前述の通り、ケトジェニックダイエットは生体内での糖質利用を抑制し、脂質の代謝を促進する食事法です。このダイエットにおいて、特に重要なのはケトン体の代謝です。ケトン体にはアセト酢酸、β-ヒドロキシ酪酸、アセトンの3つの成分が含まれており、これらは脂質酸やアミノ酸の代謝産物で、主に肝臓で生成されます。ケトン体は骨格筋や心筋などの組織に取り込まれ、エネルギー源として活用されます。興味深いことに、脳でもケトン体がエネルギー源として利用されています。
通常、脂質をエネルギー源とする場合、脂質酸はβ酸化と呼ばれる複雑な過程を経てアセチルCoAに変換され、最終的にミトコンドリアでATP(アデノシン三リン酸)が再合成されます。しかし、このβ酸化過程には多くの酵素が関与するため、ATP再合成には一定の時間がかかります。一方で、ケトン体は細胞内で迅速にアセチルCoAに変換される特性があります(図1)。
言い換えれば、ケトン体は非常に効率的なエネルギー源であると言えます。ケトジェニックダイエットでは、ほとんど糖質を摂取しないため、肝臓でのケトン体の生成が増加します。これにより、脂質を効果的に利用する身体を養うことが、ケトジェニックダイエットの特徴となっています。
6. 筋肉量の維持
ケトジェニックダイエットが筋肉保持に寄与する主な要因にはいくつかの側面があります。
まず第一に、ケトジェニックダイエットがタンパク質摂取を維持する一方で、脂質を増やすことがあります。これにより、エネルギー源が脂質となり、タンパク質が筋肉合成に主に使われるような状況が生まれます。タンパク質は筋肉の構造要素であり、十分な摂取が筋肉量の維持や成長に不可欠です。ケトジェニックダイエットが十分なタンパク質を提供する一方で、脂質をエネルギー源として活用することで、タンパク質が筋肉合成に集中でき、筋肉量を保つ上で有益です。
さらに、ケトン体自体がタンパク質の分解を抑制する働きがあります。これは、ケトン体が直接エネルギー源として利用されることにより、タンパク質が過剰に分解されることを防ぐメカニズムです。ケトン体が存在する状態では、タンパク質がエネルギー源として使われにくくなり、その結果、筋肉の分解が抑制され、筋肉量の減少が緩和される可能性があります。
さらに、ケトジェニックダイエットが糖新生を減少させることも関与しています。通常、糖新生はアミノ酸からのブドウ糖合成を指し、糖新生を行う際により体内のタンパク質がエネルギー源として利用されることがあります。しかし、ケトジェニックダイエットでは低糖質なため、糖新生が減少し、タンパク質が過度に分解されるリスクが低下します。これにより、筋肉量の減少が防がれる可能性があります。
ケトン体が筋肉量の維持に役立つ理由は、適切なタンパク質摂取、ケトン体がタンパク質の分解を抑制する効果、そして糖新生の減少によるタンパク質の節約が組み合わさっています。
7. 集中力の向上
ケトジェニックダイエットが集中力の向上に寄与する理由は複数あります。
まず第一に、低炭水化物かつ高脂質の食事スタイルにより、体内の主要なエネルギー源が糖質から脂質へとシフトします。脳は通常、ブドウ糖を主なエネルギー源として利用しますが、このダイエットでは脂質がケトン体に代謝され、これが脳のエネルギー源として活用されます。ケトン体は血液脳関門を通過しやすく、脳に安定的で持続的なエネルギー供給をもたらします。この安定感が、集中力を向上させ、脳の機能を安定させる一因となります。
さらに、ケトジェニックダイエットが炎症を抑制する効果があるとされています。炎症は体内のさまざまな組織に影響を与え、特に脳においては認知機能や集中力に悪影響を及ぼすことが知られています。ケトジェニックダイエットが炎症を軽減する可能性があるため、これが集中力の向上に寄与する一要因と言えます。
また、ケトジェニックダイエットには神経保護効果があると言われています。ケトン体は神経細胞に対して抗酸化作用やエネルギー供給のサポートを行い、神経細胞の健康を維持する可能性があります。これにより、脳の機能が最適な状態を保ちやすくなり、集中力が向上すると考えられます。
ケトジェニックダイエットが集中力の向上に寄与する理由は、ケトン体を介した安定的な脳へのエネルギー供給、炎症の抑制、神経保護効果などが複合的に作用する結果と言えます。
8. 心血管疾患のリスク低減
ケトジェニックダイエットが心血管疾患のリスク低減に寄与する理由は、いくつかの生理学的なメカニズムに起因しています。
まず第一に、ケトジェニックダイエットは体重管理をサポートし、肥満の予防や改善に寄与します。肥満は心血管疾患のリスクファクターの一つであり、体重の減少は血圧の正常化や脂質プロファイル(総コレステロール値、LDLコレステロール値、HDLコレステロール値、中性脂質値など)の改善など、心血管への有益な影響をもたらすことが知られています。
次に、ケトジェニックダイエットは血糖値およびインスリンの安定化に寄与します。低炭水化物かつ高脂質の食事により、血糖値の急激な上昇が抑制され、それに伴う急激なインスリンの分泌も緩和されます。これがインスリン抵抗性の改善に繋がり、心血管疾患のリスクを低減させる要因となります。
さらに、ケトジェニックダイエットは脂質代謝を調整し、血中の脂質濃度を改善します。これにより、血管内の脂質沈着や動脈硬化の進行を防ぎ、心血管疾患のリスクを低減する可能性があります。
また、ケトジェニックダイエットは炎症を抑制する作用があるとされています。慢性的な炎症が心血管疾患の発症や進行に関与しているとされており、ケトジェニックダイエットが炎症を緩和することで、心血管保護の一翼を担うと考えられます。
9. 炎症の緩和
ケトジェニックダイエットが炎症の緩和に繋がる理由にはいくつかの生理学的なメカニズムが関係しています。
このダイエットは低糖質かつ高脂質の食事スタイルであり、これによって血糖値が安定しやすくなります。通常の食事では、炭水化物を摂取することで血糖値が急激に上昇しますが、ケトジェニックダイエットでは糖質の制限により、この急激な血糖値の変動が抑制されます。高血糖状態は炎症を引き起こす一因となりますが、血糖値の安定化が炎症の軽減に寄与します。
次に、ケトジェニックダイエットにおいてはケトン体が生成されます。ケトン体は脂質の代謝産物であり、その中でもβ-ヒドロキシ酪酸は抗炎症作用を有することが研究で示唆されています。β-ヒドロキシ酪酸は炎症反応を抑制し、免疫系の調整に寄与することが報告されています。そのため、ケトジェニックダイエットによるケトン体の生成が炎症の緩和に寄与すると考えられています。
また、ケトジェニックダイエットは腸内細菌叢の改善にも影響を与えます。腸内細菌叢は免疫系や炎症に密接な関与があり、そのバランスの崩れが炎症の原因となることが知られています。ケトジェニックダイエットによって腸内細菌叢が改善されると、これが炎症の軽減に寄与すると考えられています。
総じて、ケトジェニックダイエットが炎症の緩和に繋がる理由は、血糖値の安定化、ケトン体の抗炎症作用、および腸内細菌叢の改善などが組み合わさり、免疫系や炎症反応の調整に寄与するためと言えます。
10. がんに対する研究
がんの末期では、インスリンが異常に分泌されている可能性が示唆されています。がん細胞自体がインスリンを分泌させ、血糖を容易に取り込むメカニズムが存在し、それが自身のエネルギー源となっている可能性があります。
ある臨床試験で、55人の参加者のうち、37人が癌ケトン食療法を3か月間継続したケースについてデータ解析を行いました。
検査の結果、癌ケトン食導入後3か月で5人が部分奏効を示し、1年後には3人が完全奏効、7人が部分奏効を示しました。生存期間の中央値は32.2か月で、最大生存期間は80.1か月、3年生存率は44.5%でした。また、癌ケトン食療法導入3か月後、生存率が有意に異なることが明らかになりました。ABCスコアの中で、血清アルブミン値とCRPが癌の予後に関連していることは既知でしたが、血糖値が進行癌の患者の生命予後と関連していることは、この検討において新たな発見でした。
安全性については、一部の患者で消化器症状の悪化が見られましたが、対処可能なレベルであり、重篤な有害事象は観察されませんでした。以上の結果から、癌ケトン食療法は、様々な進行癌患者にとって有望な支持療法となる可能性が示唆されました。
まだまだ未開発な分野ではありますが、ケトジェニックダイエットががんに効果的であるという以上のような事例も出てきています。